セミナー案内

2012年05月8日掲載
緊急セミナー「AIJ問題を考える」

2012年4月4日(水)14:00~17:00 六本木ヒルズ森タワー TMI総合法律事務所にて開催
 
本セミナーでは、監査法人、法律事務所、オルタナティブ投資のプレースメント・エージェント、そして厚生年金基金の関係者が、それぞれの立場から「AIJ事件」を受けた今後の対応について発言されました。その要旨をご紹介します。
 

不正リスク低減のための策について考える~監査法人の視点から
有限責任監査法人トーマツ
パートナー 山本 御稔 氏

 

 絶対収益追求型のファンドだったことを考慮しても、AIJのパフォーマンス水準は明らかに異常値でした。にもかかわらず、なぜ長年にわたって不正が見抜けなかったのか。その理由の1つは、AIJから提出された運用内容のデータを、第三者がチェックするスキームが十分ではなかったことにあります。
 投資家は、謎めいた運用手法に対してミステリアスな魅力を感じ、高い成果を期待しがちですが、年5%以上の利回りを長年維持できるといった極めて異常なファンドが存在する
でしょうか。一時的に達成できたとしても、同業他社も戦略を模倣するため、いずれは適正な水準まで落ちるはずです。それに本当にそれほどの高利回りが得られるのなら、他人の資産を受託するよりも自分のお金を運用したほうがいいはずです。
 また今回の事件には、投資家の判断を惑わすために心理的な罠も散りばめられていたようです。社長自らが営業に行くことで会社の信用力を補完したり、「あの基金が投資しているなら大丈夫だろう」といった「バンドワゴン効果」があった可能性もあります。他の基金が合理的な判断でファンドを購入したと仮定すれば、それに追随することで検討の手間も省けます。
 あるいはAIJには、広告よりも口コミで広がったという側面がありました。口コミなら一対一の関係も保てますし、ファンドの販売では、「今は満員で購入できないが、誰かが抜けたら可能」といった具合に、購入意欲をかき立てる「促進」作用もあったでしょう。 今後、こうした事件の再発を防止するために、ファンドの第三者チェックには何が求められるのでしょうか。監査法人によるファンド監査では、会計士がファンドの売買や収益が適切かを精査し、適切であれば監査報告書に対して無限定適正意見を表明します。結果に疑義がある場合は「限定付意見」とし、さらに疑わしい場合には意見を出さないという判断もあります。AIJのファンドはケイマン籍でしたが、国内の大手監査法人は海外の提携先と連携しており、オフショアファンドの監査も実施できる体制を整えています。
 またAIJの運用戦略は相対市場におけるオプション取引だったため、時価の把握が困難でした。こうした場合、併せて内部統制も確認することで、ファンドが組織として機能しているかを確かめることも可能です。投資家も監査報告書に納得できなければ、「報告書の内容に相違がないか」を、受託機関を通じて監査法人に問い合わせることもできます(契約内容により問い合わせ方法は異なります)。
 さらに「SSAE16(これまではSAS70)」という、財務報告目的のための内部統制に関わる検証報告書をチェックする手もあります。これは、まずファンドの各部署の担当者に業務内容を書いてもらい、監査人は記載内容が実際に行われているか、業務フローとして不都合でないかを確認するというプロセスを踏んで作成されます。不正を発見するうえで一定の効果がありますが、いかに広範囲なスコープをカバーする「SSAE16」でもファンドの全業務はカバーできず、けっして万能というわけではないので、コンサルタントなどの力を借りて補完することをお勧めします。
 今回の事件では、パフォーマンス追求に軸足が偏っていたという投資家側の問題も浮かび上がりました。本来、運用を託した資産がどうなっているかを把握しておくことは投資家の基本作業で、今後は投資資金のコントローラビリティ(可制御性)を確保していくことが、投資家にも求められるでしょう。

 

関係当事者の責任と今後に向けた対応策~法律事務所の視点から
TMI総合法律事務所
弁護士 中西 健太郎 氏(左) 弁護士 大越 有人 氏(右)

 

 AIJ事件では、AIJ自体に対する責任追及に加え、被害者である企業年金基金の理事が受託者責任を果たしていたかも問われています。そもそも受託者責任に関して重視されるのは、注意義務と忠実義務の2点です。まず注意義務とは、資産の運用に当たっては相当な注意を払うことが要求されるというもので、「思慮分別のある人なら当然行うべき判断をせよ」ということです。また忠実義務とは、年金の場合には、自分の利益または第三者の利益と加入者の利益が衝突するような場合には、加入者の利益を優先しなければならないということです。
 厚労省が平成9年に示した「厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」(講演資料9~16ページ参照)は、これらの考え方に則り、資産運用関係者の具体的な行動指針として作成されました。ガイドラインさえ守っていれば一切の責任を免れるというものではありませんが、裁判所が判断を下す際の参考にはなり得るとされています。
 このガイドラインでは、外部の運用機関との間で資産の管理運用に関する契約を締結した場合、理事等は運用機関の選任や管理について責任を負うとされています。これを踏まえると、理事等においては運用機関の選任や管理が的確に行われていることを合理的に説明できる態勢となっている必要があると言えます。
 また、このガイドラインは、理事に対して「社会通念上要求される程度の注意を払い、基金のために忠実にその職務を遂行する」ことを求めるとともに、特に管理運用業務を執行する理事は「管理運用業務に精通している者が通常用いる程度の注意を払って業務を遂行しなければならない」としています。求められる「程度」の水準は一義的ではありませんが、自らがどういうロジックで基金を管理運用していたかを事後的に説明できるような態勢になっている必要があるのではないでしょうか。
 このほか、基金は個別事情に応じて自らの判断で基本方針や基本ポートフォリオを策定するものとされています。このため、どういう判断で基本方針等の策定を行ったのかを合理的に説明できる態勢になっている必要があるといえます。基本方針等を定期的に検証し、必要に応じて見直すといったPDCAサイクルを構築することも重要になってくるでしょう。
 さらに運用受託機関の運用実態に疑義がある場合には情報提供を求めることや、義務違反があった場合には責任を追及できるような契約を結んでおくことも必要ではないでしょうか。
 AIJ事件は、管理運用業務をより慎重に襟を正して行うべきことを再認識する契機となるのではないでしょうか。今後は、基金や理事による自己責任原則の確認が求められるでしょう。理事が一連の義務に違反した場合、基金に対する損害賠償責任を問われる可能性もあります。
 ただし義務を果たしていたか否かは、運用実績等の結果ではなく、職務遂行の時点を基準にその過程が適切かどうかにより判断されます。このため今後は、今回のような事件が再発することも想定して、日頃から客観的な資料を集めるとともに、適切な意思決定が行われたという過程を事後的に説明できるよう準備しておくことをお勧めします。
 また、運用受託機関との間で情報収集を可能とするような内容の契約を締結し、運用報告書など定期的に作成される資料があれば、提出の時期や内容も含めて具体的に決めておくことによって、正確かつ迅速な情報収集を可能とすることも必要でしょう。また何かが起きた場合、証拠があれば言った言わないの争いに発展することが避けられますので、メールや資料を残しておくことも大切でしょう。

 

どのような点を考慮して運用会社を選ぶべきか~プレースメント・エージェントの視点から
アーク・オルタナティブ・アドバイザーズ株式会社
代表取締役社長 棚橋 俊介

 

 プレースメント・エージェントとは、信託銀行や投資顧問会社などに優良なファンドを紹介する「卸業者」のような存在です。当社は年金基金と運用会社の中間に位置し、プライベート・エクイティ(PE)投資の分野で優れたファンドを発掘する「目利き」の役割を担っています。本日は、PEを中心に数多くのオルタナティブ戦略のファンドのデューデリジェンス(DD)を日々行っている立場から、どのような視点で運用会社を選別したらいいかについてお話したいと思います。
 PEなどのDDは、①ファンドソーシング、②マネジャーおよびファンド選定、③投資条件交渉という3つのプロセスで構成されます。一般には、②のプロセスのみがDDと定義されがちですが、われわれは①と③も含めて「広義のDD」ととらえています。まず①ファンドソーシングでは、優良かつ十分な母集団を確保することが重要です。次に②マネジャーおよびファンド選定においては、透明性の担保、言い換えれば投資スキームの分かりやすさや、日本の投資家向けの情報提供に積極的かどうかが、重視すべきポイントとなります。 透明性が担保されていると判断されたら、次に収益の源泉が明確かどうかをチェックします。
 収益の源泉の定義は、マネジャーごとにさまざまです。そこでわれわれは、「成功の方程式は何か?」との質問を投げかけ、それをきっかけにしたマネジャーとの議論を通じて収益源泉を類型化し、回帰分析的に成功の方程式を紡ぎ出す方法をとっています。時間はかかりますが、各マネジャーがなぜ成功したかの方程式を、むしろわれわれが導き出す感覚で内容を精査します。また成功の方程式を導くためには、過去の失敗例を探すことも有効です。失敗から得た教訓が、現在の運用の仕組みにどう活かされているかを確認するためです。
 そのうえで、運用実績の検証とそれを再現する運用体制の確認を行います。母集団が多ければ類似の事例も得やすく、相対評価の信頼度が増します。体制面の確認では、退職者の発生頻度もさることながら、辞めた人にその理由を聞いたりしながら、組織の問題点を浮き彫りにします。また現在の運用体制と収益源泉との因果関係に継続性があるかもチェックします。主要人物の年齢が高すぎる場合には、リタイアに伴うキーマンリスクも想定されますから、その後の会社経営への影響に注意を払う必要があります。
 DDプロセスの最終段階である③投資条件交渉とは、例えば日本の投資家の規模を勘案して、最低投資金額を下げてもらうといった交渉を指します。また投資家層によって必要とする情報の量も異なりますから、情報提供のレベル調整も行います。
 年金基金の皆様がこれらのDDをすべて自前で行うのは容易ではないでしょうから、まずは以下に挙げる点に注意されることをお勧めします。それは①分からない商品には投資しない、②投資を行う際には「適切な相談者」を活用する、③採用後のモニタリングのことも考慮に入れて投資を決定する、という3点です。
 今後は一方的に情報を得るだけではなく、投資家の皆様の側からも情報の要望や不明点の問い合わせをする、「契約の双方向性」が求められていくのではないでしょうか。

 

AIJ問題を再発させないために年金基金が考えるべき課題
大阪府病院厚生年金基金 
運用執行理事 藤岡 博憲 氏

 厚生年金基金の最大の使命は、未来永劫にわたって受給者、加入者に対して年金を支給し続けていくこと。これに尽きるでしょう。そのための記録管理、あるいは掛金等の徴収をきちんと行っていくことが、基金には何よりも求められています。
 一方、運用に関しては、年金基金は自ら資産を運用しているのではなく、運用機関のプロに運用を委託している立場です。したがって、第二部で中西弁護士、大越弁護士も紹介されていた厚労省の通達「厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」を忠実に守ることが、本来の常務・運用執行理事の責務であると考えています。
 しかしながら世間一般の見方は、必ずしもそうではないようです。AIJ事件を受けた一連の報道の中には、「運用の素人が管理している」といった論調も目立ちますが、そうした報道に対しては、ある種の違和感を覚えざるを得ません。
 もちろん、前述のガイドラインに書かれている「基本的留意事項」「分散投資義務」「資産構成の重視」「運用コンサルタントの利用」「自己研鑽」「利益相反のような忠実義務違反の恐れのある行為の禁止」といった要件を満たすことは必要でしょう。かといって、それを担う常務理事や運用執行理事が「運用のプロ」である必要はないのではないでしょうか。ちなみに当基金では、運用機関の選定基準や採用のプロセス、投資対象資産の区分などを明文化することで、透明性の高い意思決定の体制を整えています。
 では、善管注意義務・忠実義務といった法令で求められている受託者責任や、ガイドラインにもある「理事として社会通念上要求される程度の注意を払う」「管理運用業務に精通している者が、通常用いるであろう程度の注意を払う」という要求に対し、基金の常務理事や運用執行理事は具体的にどう対処したらいいのか。これは、今後改めて検討しなければならない課題であろうと考えます。
 また現在のルールでは、基金が自ら運用を行う場合には専任の運用執行理事を任命しなければなりませんが、インハウス運用を行う基金の常務理事がどこまでの責任と注意義務を負うべきなのかも、併せて検討されるべき課題と言えるでしょう。

 
 
なお上記ご発言は各所属団体を代表したものではなく、個人としてのものであり、また要旨にする際に、ご発言者のニュアンスや前後の文脈が省略されていることがございますことをご了承ください

 
本セミナーについてご質問等ございましたら、下記までお問い合わせ下さい。
電話:03-5255-5660(代表) E-mail:info@ark-aaa.jp

セミナー案内一覧へ戻る